コラム - お役立ち情報

2023.03.24

クエタ?

はじめに

携帯電話の通信量や契約を「ギガ」と呼び、「ギガ使い切っちゃった!」という言い回しをするようになって数年。
このコラムを読む読者諸氏は通信データサイズを測る単位の「ギガバイト」の省略であることはご存知と思います。

バイトに限らず、あらゆる計量単位に付けて巨大/微小な数値を読みやすくする、SI接頭語の一種としてギガは
10の9乗=1,000,000,000=10億
を示しています。
1ギガバイト(GB)は10億バイト、1ギガヘルツ(GHz)は10億ヘルツです。

SI接頭語とは?

理系出身者の方々ならばご存知の方も多かろう、SI接頭語を再掲します。

接頭語 記号 意味
ヨタ Y 1,000,000,000,000,000,000,000,000
ゼタ Z 1,000,000,000,000,000,000,000
エクサ E 1,000,000,000,000,000,000
ペタ P 1,000,000,000,000,000
テラ T 1,000,000,000,000
ギガ G 1,000,000,000
メガ M 1,000,000
キロ k 1,000
ヘクト h 100
デカ da 10

 
最近のパソコンのディスクは容量がテラバイトTBのものが出てきているのでテラも日常的な単位になってきました。
某ファストフードのメガマ○クは何かが百万に匹敵するという主張でしょうか。違いますね、単に「大きい」の比喩ですね。
某カップ焼きそばは「メガ盛り」が話題になっていましたが、それすら凌駕する「ペタ盛り」というのをスーパーで見かけてペタまで市民権を得てきたなぁ、と思いました。勿論、1000兆倍の焼きそばが入っているのではないです。
物騒な話ですが核兵器の威力を示す「10メガトン級」という表現はTNT火薬換算で10,000,000トンの威力ですよ、ということですのでこれは倍数を正確に使っている例になります。

日常ではペタ以上はあまり耳にしませんが、インターネット通信で飛び交う情報量は1ヶ月あたり300エクサバイト程度(2021年)という統計があるそうです。
また全世界に存在するデジタルデータは2020年で 40ゼタバイト、という試算があります。

ゼタとかヨタあたりになると天文の世界かな、って印象ですが天文ではSI接頭語よりも10の何乗という表記のほうが好まれているように感じます。
実際この2つはわりと新しく、1991年に国際標準として登録されました。
最初にSI接頭語を国際標準にされたのは1960年、このときはテラまでの登録でした。エクサまでは1975年に追加されています。

新たなSI接頭語

そして2022年、さらに2つの接頭語が追加されました。

接頭語 記号 意味
クエタ Q 1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000
ロナ R 1,000,000,000,000,000,000,000,000,000

 
クエタはゼロを数えるのにも疲れそうですが10の30乗です。
いったいどんなシーンで使うんだろう、と思いますが例として
”地球の重さは6Rg(ロナグラム)”
というのが挙がっていました。全然分かりやすくないですね。

SI接頭語の由来とは

SI接頭語は耳慣れない呼び名が多いですが、多くがギリシャ語に由来しているためです。

日本では古来、SI接頭語に似た「命数」表現があり、こちらはなんと既に10の64乗(無量大数)まで定義済みですが、実用ではなくクイズ番組のネタ程度でしかお目にかかれません。
クエタ、10の30乗は命数では「100穣(じょう)」に該当します。SI接頭語は1,000単位に進むのに対して命数は10,000単位に進むのでピッタリ該当する箇所は多くありません。

大きい方と同じように小さい方の接頭語も同じタイミングで追加されました。

接頭語 記号 意味
デシ d 0.1
センチ c 0.01
ミリ m 0.001
マイクロ μ 0.000 001
ナノ n 0.000 000 001
ピコ p 0.000 000 000 001
フェムト f 0.000 000 000 000 001
アト a 0.000 000 000 000 000 001
ゼプト z 0.000 000 000 000 000 000 001
ヨクト y 0.000 000 000 000 000 000 000 001
ロント r 0.000 000 000 000 000 000 000 000 001
クエント q 0.000 000 000 000 000 000 000 000 000 001

 
ロント、クエントが2022年からの新顔です。

これらの接頭語は大きい方と同様に、定義どおりの単位として用いられるのとは別に、大きさの比較、順序を示すために使用されるシーンが多くなっています。
例えば携帯電話のSIMカード。最初のサイズが縮小されて誕生したのがマイクロSIMですが100万分の1のサイズになったわけではないですね。
その次にさらに縮小されてナノSIMが登場し現在の主流ですが10億分の1とは無関係です。
単に前世代よりも小さいですよ、と主張するためだけの命名になっているのですね。
SDメモリカードも標準サイズ、ミニSD、マイクロSDという種類がありますがやはりサイズの序列を示しているだけの命名です。

小さい方も日本の命数があるのですが、こちらは10,000単位ではなく10単位で10のマイナス21乗「清浄(しょうじょう)」までしかありません。
1ゼプト=1清淨です。
小さい方の単位は量子力学や宇宙論のような限られた分野でしか登場しないので日本の命数はカバーしていないのだと思います。

まとめ

この接頭語の拡大を見ていると、人類の勢力範囲の拡大を反映しているように感じます。
自分で直接扱うことがない大きな/小さな数字も、こんな単位で測るものが我々の宇宙に存在する、と考えるとワクワクするのはガチガチの理系小僧だった筆者だけでしょうか。
一つ今夜は夜空を見上げてそんなことを考えてみるのは如何でしょう。